「ドライブしてる?」マネのできない自発型組織がその街の鼓動が集まるレストランを作り出す|株式会社HUGE CEO 新川 義弘

2005年の設立から、「街の資産になる」「百年品質レストラン」を理念に新しい業態のレストランを次々に立ち上げてきた株式会社HUGE。
HUGEを率いる代表の新川氏は業界の重要キーマンであり、グローバルダイニング在籍時代はサービスの神様としてアメリカ大統領と総理大臣の接客を担当、HUGE設立後は飲食業界において数多くの新業態レストランを打ち出し、そして成功を収めてきました。
「これからは情報は閉ざすものではなく、出していくもの。出していかないと情報は入ってこない」と語る新川氏に、顧客との最高コミュニケーション、そしてそれを生み出すためのレストラン業界における組織について伺いました。

究極は、1秒でも早く
手元から目を離して
お客様を向くこと

--HUGEグループが運営するレストランの魅力の一つに、絶妙な接客とホスピタリティの高さがあげられますが、飲食店における理想のコミュニケーションというモノはありますか?
<新川>
本当にいいのは、料理を作る人、飲み物を作る人がオーダーを取りに行って、自ら作ってお出しすることなんですよ。例えばラーメン屋みたいにご主人が「何にします?」「醤油うす目ね」「かしこまりました」そして、お客様が「おいしかった」って言ってくれたら、最高のコミュニケーションだし、最高の満足感がありますよね。レストランでは、それをウェイターがキッチンの代わりに、ドリンクランナーがバーテンダーの代わりにやっているに過ぎないんですよ。

--お客様がどんな要望を持たれているのか?どのようなタイミングでサービスを提供したら良いのか?など、そのために必要な情報が必要なスタッフに共有されていることが重要になると思いますが、具体的にはどのようなオペレーションを意識されているのでしょうか?
例えば、世の中には色んなデジタルのコミュニケーションツールが出回っていますが、確かに上手に使えば便利でいいモノです。しかし、それらのツールから得られる情報を“待っているスタンス”になってしまうと話しは別です。むしろ、それらを使わないことで情報を“取りに行く姿勢”になるのでは?と思っていますし、社内でもそういった議論になることもあります。 それこそがアイコンタクトで仕事ができるチームの基本だし、そうなっていかないとレベルも上がっていかないんじゃないかなと思います。
これは、オーダーエントリーシステムでも同じことが言えます。ハンディからあれこれ指示や表示が出過ぎると、頼っちゃうし、几帳面にやろうとすると違う方向に向いちゃうでしょう。 究極は、1秒でも早く手元から目を離して、お客様のほうを向くためのオペレーションじゃなきゃいけない。 ハンディを入力している姿って接客をしてるように見えますか?お客様の目を見ずに、機械に意識がいってしまうのは嫌なんです。だからハンディーターミナル方式のオーダーエントリーは、僕は最初から捨てたんですよ。

--確かにメモを取る姿の中にプロの姿を感じますよね。しかしメモを見ながらバックヤードでオーダーエントリーシステムに入力すると、手間がかかるように思えるのですが。
その場でデジタル入力すれば、オーダーしたものを食べることはできるかもしれないですが、ちょっと違うかなと思ったんです。メモを取ることで見返す作業ができるし、アナログとして残して置くことができます。だからとにかくメモを取る。そうするとお名前や自分が知りたい情報を、自分の優先順位で書く癖が付きます。「きょうは◯◯様が来店されたな。◯◯様はいつもコロナビールだな。」って。勉強でも同じでしょ、メモすることでお客様のことを思いながら、それを最後にデジタル、つまりオーダーエントリーシステムに入れていくんです。重要なのは頭の中で一度創造することです。
そのほうが戦略性があって面白いと思いませんか。機械システムに主導権を与えたくない、あくまでもアナログ、ヒューマンタッチにこだわりたいんですよ。そういう意味でオーダーエントリーシステムは「シンプルにしたい」という基本的な考え方があります。
なのでオーダーエントリーシステムの最大の条件は、あるレベルにいった人が能動的に使いやすいもの、ユーザーブレンドリーで使えることだと思います。

15年におよぶ構想、
究極のゴールを目指す

---新川さんが目指すオペレーションの実現には、かなりの苦労があったのでは?
この話は15年ぐらい前から同じ話をしているんです。でもこれまでのオーダーエントリーシステム業界の方に説明してもなかなか理解してもらえなかった。なるべく直感的・能動的なものを作りたいと思っていても、彼らのパッケージシステムの上でまとめられてきたという経験が多々ありました。

オーダーエントリーシステムは、汎用性があって全部の会社の考え方にカスタマイズされるのが本当は理想なんですよね。本当はアナログで2重複写とか3重複写でやってる伝票をデジタル化して、それを知りたい人に、Person to Person、Person to Group、Group to Groupで情報を知らしめたり、ストックしたり、見たいときに拾いにいったりするものです。そういう意味ではコンピューター的な使い方もあるし、メールやLINE的な使い方もあって、複雑なことが絡んでるんですよね。そしてそれにそれぞれプライオリティー付けをしていきたいわけです。

もちろん、中には優等生なオーダーエントリーシステムもありますが機能数が多すぎることもあります。高級レストランのオペレーションが居酒屋で必要でしょうか?オペレーションはそれぞれに見合った、例えばホテルバージョンやファインダイニングバージョンなど、必要なサービスに必要な機能が選択できればいいと思います。

だから、僕たちが目指す究極のゴールの価値を分かっていてくれる人と一緒に、大変でも遠回りしてもやってきています。

ドライブする
自発的な
組織づくり

--現在は、理想とされるオペレーションへのスタートに立たれているわけですが、飲食店運営におけるオペレーションシステムはどのような位置づけと考えますか?
以前、在籍した会社で、欧米のレストランオペレーションを4か月ほど学びに行きました。そのときマネージャーがよく言っていたのが「DRIVEできてるのか?」って。これって僕らが業界用語で使うんだけど「お店ちゃんと回った?」ていう意味なんです。回ったと言うのはもちろんオペレーションのこと。的確な時間に料理が出て、お会計間違わないでお客様が帰られたか?というようなことなんです。

サービスに対する期待とはちょっと違うんですけど、お客様の期待はそこしかないんです。例えば、食べ放題が気に入って2回目に行ったときに、食べ放題じゃないと嫌じゃないですか。すごいシンプルなんですよね。同じお店に行く動機って、前のものを越えてほしいわけじゃなくて。ちゃんと前と同じようにできてるということなんです。それを補うためのツールが、オペレーションシステムなんです。

--オペレーションシステムを利用するスタッフさんはどのような意思や意識を持たれていますか?
実は、社内で僕が決めたことってほとんどないんですよ、オペレーションシステムをどうするか考えるときも、トレンディな店、毎日忙しくスピード重視の店、落ち着いて機能的な広がりも必要な店、と3つのグループに分け、結構な時間をかけて情報を集めました。その中で現場からたくさんの情報が上がってきました。なので、あらかじめ「このシステムはこの使い方です。」って決められていると、アプリケーションの広がりにも興味なくなるし、基本性能を上げようって考えないと思うんですよね。

システムに操縦されるんじゃなく、まるでコックピットに自分がいるように操縦したいと思っています。自分たちが育てる、自分たちが自責で、自分たちがやってることを中心にして動いてくっていう、そういうイメージを持っていたほうが、システムにも機能の広がりが出来て、未来が見えてくるんじゃないかなというように感じています。

--自主的な組織でないと理想のオペレーションシステムの実現は難しいですよね。
理想とするオペレーションは、自発的な組織じゃないと絶対使えないです。僕らもそこを大事にしながら、相当な時間を使って組織をつくってきたんですね、11年くらいかけて。
だからオペレーションシステムとのかかわり方も、恋人ぐらいの気持ちでやらないと、攻略できないなんて言っているスタッフもいる、面白いでしょう?しかも自発的な気持ちだから、やらされ感は出てこないんです。
もう一つみんなの気持ちで芽生えてるモノは、「僕らがシステムとのかかわりに主導権をもらえてる」という自負ですね。そうすると自分の発言にも自然と責任を持つようになりますよね。

やっぱり仕事っていうのは、人に使われてるって思った瞬間にネガティブなことを考え出すんですよ。
俺はこんなに頑張ってるのに、お給料こんなだとか、なんで俺だけつらい思いしてるんだとか、なんでホール頑張ってるのにキッチンは頑張ってないんだろう、みたいな。本当は皆それぞれが頑張っていて、役割分担が違うだけなのに、ネガティブなところを見ちゃうんですよ。
ネガティブをなくして、チームがうまくいくには何が必要かっていうと、自責なんですよね。周りに対しての思いとか、チームでやっているという意識に変わった瞬間に、相手への思いやりが出るんです。

うちにはHUGE-ish(HUGEっぽい)という言葉があって、「HUGE10の約束」っていうビジョンをかかげているんだけれども、その中にもそういう思いが込められているんですよね。
チームがどうしたいんだと。どうせならそれをグルンと回すドライブ、オペレーションにみんなで関わる。自分だったらどうなんだろうっていうことを、顧客目線を忘れずに作った結果が今なんです。

--こんなにノウハウを話してしまって大丈夫ですか(笑)
情報は出すべきなんですよ。みんなで良くなった方が飲食業界全体の印象が良くなるもの。
オーダーエントリーシステムもかゆい所に手が届くモノがどんどん出てきているけど、まだまだ過去要望からできたものです。新しい考えがそこに入ると、全員が使いきれるわけではないという意見も出てくるだろうけど。いいじゃない、使い切れなくても。オペレーションに必要なシステムは、提案型でちょっとぐらい上に行かないと、たぶん共に成長できないんじゃないかなと思いますね。

新川 義弘

株式会社HUGE 代表取締役社長兼 CEO  1963年生まれ。株式会社HUGE(ヒュージ)代表取締役社長 兼 CEO。
1982年、福島商業高校卒業後、新宿東京会館(現・ダイナック)を経て、1984年に長谷川実業(現・グローバルダイニング)入社。1988年、取締役に就任。『グローバルのサービスの確立者』とも言われ、No.2として東証2部上場など、同社が日本の外食の代表企業へと躍進するステップに大きく貢献する。
2005年、同社を退職し、株式会社HUGE(ヒュージ)を立ち上げる。

インタビュアー:
株式会社リザーブリンク
井出勝彦

写真:
トロワデザイン
三木康史